17年ぶりの監督復帰作『アンナと過ごした4 日間』(08)が東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、続く『エッセンシャル・キリング』(10)でベネチア国際映画祭審査員特別賞、主演男優賞(ヴィンセント・ギャロ)W受賞の栄誉に輝いたイエジー・スコリモフスキ。華麗なる復活を果たし一躍映画界の最前線におどりでた彼の最新作『イレブン・ミニッツ』が、前作から5 年の歳月を経て完成しました。

デビュー作から半世紀にわたり映画界で活躍してきたスコリモフスキが監督・脚本・製作を手がけた本作は、リアルタイム・サスペンスの傑作! 午後5時に始まり5 時11 分に終わるこの物語は、大都会に暮らすいわくありげで見ず知らずの人々に起こる11分間のドラマをモザイク状に構成した、監督初の群像劇。限定された抽象的空間(『エッセンシャル・キリング』)や特殊な時間設定のあるドラマ(『身分証明書』『アンナと過ごした4 日間』)など、スコリモフスキ好みの映画スタイルによって描かれた運命のいたずらが、衝撃的なクライマックスによって、見る者の精神を覚醒させます。

観客誰もが想像し得ない前代未聞、驚愕のラスト・シーン起承転結のあるストーリー、詳細な心理描写、背景説明などを一切排し、使い古されたサスペンスという定番ジャンルの様式を、掟破りでラディカルなチャレンジ精神で突破した本作。監視カメラ、Web カメラ、カメラ付き携帯、CGといった様々なメディア技術を巧みに使い、ローアングル撮影、大胆な俯瞰シーン、スローモーション等、多種多様な質感と視点を駆使した魅惑の映像と、バイクの疾走音やジェット旅客機の爆音、救急車のサイレン等、都市空間ならではのシンフォニックなノイズが緻密な設計のもとに融合し、悲哀感ただよう人生の光と影を見事に表現しています。人々のありふれた日常が11分後に突如変貌してしまうという奇妙な物語を、テロや天災に見舞われる不条理な現代社会の比喩として描いたこの映画は、個人の生や死がサイバー・スペースやクラウドといった環境に取り込まれていく未来を予見していると言えるでしょう。78歳の巨匠が映画表現の新たな地平を切り拓く『イレブン・ミニッツ』。

11分後のあなたは何をしていますか?
1938年5月5日ポーランド・ウッチ生まれ。エンジニアの父と教師として働いていた母は第二次世界大戦中レジスタンスに身を投じるが、父はナチスに処刑されてしまう。大学では、民俗学、文学を専攻しボクシングに興じる。一方で、ジャズにも魅了されジャズ・ピアニストで作曲家のクシシュトフ・コメダと知り合い、彼を介してアンジェイ・ムンク、ロマン・ポランスキーらと出会う。この時期、詩集、短編小説、戯曲などを発表し、アンジェイ・ワイダの『夜の終わりに』(60)で共同執筆およびボクサー役で俳優デビュー。この後、ウッチ国立映画大学に入学し、ポランスキーの長編デビュー作『水の中のナイフ』(62)で台詞を執筆。64 年、自ら主演して完成させた長編第1 作『身分証明書』を発表、アーンへム映画祭でグランプリを受賞。その後同作のキャラクター“アンジェイ” を主人公にした『不戦勝』(65)、『手を挙げろ!』(67)を監督・主演でつくりあげる。しかしながら『手を挙げろ!』がスターリン批判と言われ上映禁止処分となり、これにより国を離れる。67 年ベルギーを舞台にジャン=ピエール・レオー主演『出発』を監督。ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。以後、イタリア・ロケによる英国映画『ジェラールの冒険』(70)、ジョン・モルダー゠ブラウン主演の超カルト作『早春』(70)などを意欲的に撮る。『ザ・シャウト/さまよえる幻響』(78)でカンヌ国際映画祭グランプリ、『ムーンライティング』(82)で同映画祭最優秀脚本賞に輝き、『ライトシップ』(85)でベネチア国際映画祭監督賞および審査員特別賞を獲得、誰もが認めるヨーロッパを代表する映画作家の地位を確立。また、この頃俳優として出演した『ホワイトナイツ 白夜』(85)での演技が高い評価を受け、アメリカの大学で講師を務めると共に、画家としても活動しながら、ロバート・マンデル『ビッグショット』(87)、ティム・バートン『マーズ・アタック!』(97)、ミカ・カウリスマキ『GO! GO! L.A.』(98)、ジュリアン・シュナーベル『夜になる前に』(00)、デヴィッド・クローネンバーグ『イースタン・プロミス』(07)といった作家性の強い監督作で名優ぶりを披露している。

2008年、17年ぶりに監督復帰した『アンナと過ごした4 日間』を故国ポーランドで製作。東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、日本での劇場公開が実現し大ヒットとなる。10年、ヴィンセント・ギャロ主演『エッセンシャル・キリング』でベネチア国際映画祭審査員特別賞、最優秀男優賞をW受賞。カンヌ国際映画祭批評家週間の審査員を務める等、映画界最前線への完全復帰を果たす。現在は、『夜になる前に』で共演したエヴァ・ピャスコフスカと公私にわたりパートナー関係にあり、ふたりの名前をとって命名した映画会社SKOPIAを起点に活動。俳優としてもハリウッド超大作『アベンジャーズ』(12)で健在ぶりを披露。12 年より我が国で例年開催されている「ポーランド映画祭」の監修も務め、毎年舞台挨拶のために来日し大の親日家ぶりを発揮している。

ちなみにイエジーと同年生まれの監督には、ポール・ヴァーホーヴェン(オランダ出身)、ジャン・ユスターシュ(フランス出身、1981年没)、イシュトヴァン・サボー(ハンガリー出身)らが、1歳違いではフランシス・フォード・コッポラ(アメリカ出身)、ピーター・ボグダノヴィッチ(アメリカ出身)、フォルカー・シュレンドルフ(ドイツ出身)らがいる。
1964年
「身分証明書Rysopis
1965年
「不戦勝Walkower
1966年
「バリエラBariera
1967年
「手を挙げろ!Ręce do góry
「出発Le Départ
1970年
「ジェラールの冒険Adventures of Gerard
「早春Deep End
1972年
「キング、クイーンそしてジャックKing, Queen, Knave
1978年
「ザ・シャウトShout
1982年
「ムーンライティングMoonlighting
1984年
「成功は最高の復讐Success is the best revenge
1985年
「ライトシップLightship
1989年
「春の水Torrents of Spring
1991年
「30 ドア 鍵30 Door Key
2008年
「アンナと過ごした4日間Cztery noce z Anną
2010年
「エッセンシャル・キリングEssential Killing

 
地域 劇場名 公開日
京都市 立誠シネマ 3月11日