『勝手にしやがれ』(1960)で一世を風靡し、『女は女である』(1961)『女と男のいる舗道』(1962)などで話題作を次々に発表していたゴダールが、当時『素直な悪女』(1956)などでフランスを代表するスター女優となっていたブリジット・バルドー(B.B.)を主演に迎え、イタリア人作家モラヴィアの原作をもとにした本作。劇作家ポールは、映画プロデューサーのプロコシュに、大作映画『オデュッセイア』の脚本の手直しを命じられる。そんな夫を、女優である妻カミーユは軽蔑の眼差しで見つめていた。映画のロケのため、カプリ島にあるプロコシュの別荘に招かれたポールとカミーユ。ふたりの間に漂う倦怠感は、やがて夫婦関係の破綻を導き、思いがけない悲劇を生む……。夫婦の愛憎劇と映画製作の裏話を交差させながら描く、美しいほどに残酷な愛の終焉。
60年代ファッションアイコンでありセックスシンボルでもあったバルドーは、鮮やかな衣装とともに美しい裸体を大胆に披露し、その結果、彼女がベッドに横たわる印象的な冒頭シーンが誕生した。カプリ島でのロケ撮影、そして主にバルドーへの破格の出演料のため、ゴダール作品のなかで稀に見る大予算映画だが、そのぶんメロドラマ的要素の強い作品となった。また本作は、夫婦のドラマであると同時に映画をつくることをめぐる自己言及映画でもある。妻との不和、そして芸術と産業としての映画を前に苦悩するポール役のミシェル・ピコリが見せる陰鬱さは、あたかも作家ゴダール自身の姿を彷彿とさせ、映画監督役としてヌーヴェルヴァーグの作家たちが愛したアメリカの巨匠監督フリッツ・ラングが出演し強烈な印象を残す。フィリップ・ガレルは、この『軽蔑』への返歌として、モニカ・ベルッチ×ルイ・ガレルで『灼熱の肌』(2011)を発表している。