


男は異国の地になじめず、放蕩を続けるアメリカ人。女はフランスからポルトガルにやってきた、考古学を研究する学生。視線が触れた瞬間、言葉を交わす間もなく惹かれ合ったふたりは情熱的な一夜を共にする。シーツの陰で、夜の街灯の下で、カフェの喧騒の中で、愛を語り合い、孤独に怯え、幸せの意味を噛みしめるふたり。しかし女には恋人がいた。あの夜を信じたい男と未来を忘れたい女の心は、互いに求め合いながらも、ひとつになることを拒む。やがてふたりのすれ違いが決定的に思えたそのとき、ある奇跡が起こる……。恋より儚く、愛より情熱的。そんな説明しがたい感情をスクリーンに焼き付けた、ロマンティックでほろ苦いラブストーリーが誕生した。

男=ジェイク役には『スター・トレック』(09)シリーズや『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)などで将来を嘱望されながら、2016 年に27 歳で惜しくも逝去したアントン・イェルチン。女=マティ役に本作が初主演のルシー・ルーカス。また『ママと娼婦』(73)のフランソワーズ・ルブランが重要な役どころで貫録を見せる。監督・脚本は、大学で映画学を教え批評家としても活躍するブラジル出身の新鋭、ゲイブ・クリンガー。処女作でヴェネチア国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞、本作は長編劇映画初挑戦ながら、ジム・ジャームッシュがその稀有な才能に惚れこみ、製作総指揮を名乗り出たほど。共同脚本はクリント・イーストウッドの『トゥルー・クライム』(99)などを手掛けたラリー・グロス。スーパー8、16ミリ、35ミリとあらゆるフィルムを駆使して描かれるのは、過去と現在、そして未来の記憶。まるで寄木細工のように精巧に組み立てられた映画『ポルト』は、ある一夜に囚われた男と女のふれあいを通して、人生の一瞬の出来事を、まるで永遠であるかのように鮮やかに紡ぎだしていく。
