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1950年代後半、古い映画を激しく批判し“フランス映画の墓堀人”と呼ばれたトリュフォーが、16ミリの習作『ある訪問』に続いて製作した実質的デビュー作。南仏の田舎町を舞台に、美しい娘と、彼女が気になってしかたがない少年たちの間で起こった小さな事件。光溢れるロケ撮影、スカートをなびかせ自転車を走らせるB・ラフォンの美しい肉体、いたずら好きの少年など、その後のトリュフォー作品につながる主題がすでに提示されている。
妻子持ちの高名な文芸評論家とキャビンアテンダントの不倫劇というありふれた恋愛スキャンダルを題材としながら、平和で退屈な日常を捨て若い女に溺れる優柔不断な中年男の心理的葛藤を巧みに描いた本作。恋のロマンを高らかに謳い上げる作品を作るかたわら、冷徹なリアリズム描写をものにするトリュフォーの幅広い世界は驚異の一言。ヒロイン役のF・ドルレアックは、後に『暗くなるまでこの恋を』『終電車』でヒロインを演じるC・ドヌーヴの姉。
『火星年代記』で名高いファンタジーSFの巨匠レイ・ブラッドベリ原作による近未来サスペンスの傑作。読書を禁じた管理社会で、本を焼却する焚書隊の男が、本を隠し持っているとされる女と恋に落ちる。彼女を通して“本”の魅力に取り憑かれた男は……。全体主義社会への痛烈な批判を試みた監督は、一方でヒロイン、J・クリスティの神秘的な存在感もスクリーンに描写。秀逸なオープニングとニコラス・ローグのシャープな映像も必見。
『夜霧の恋人たち』のラストで仲睦まじかったアントワーヌとクリスチーヌはとうとう結婚、男の子も生まれ親子の生活が始まる。バイオリン教師の妻と違い、相変わらず恋も仕事も移り気なアントワーヌは仕事場で知りあった日本人キョーコに興味を。またしても夫婦仲は険悪に……。エルンスト・ルビッチやジャック・タチにオマージュを捧げ、ユーモアたっぷりに夫婦の生態を可視化した隠れた傑作。パリコレのモデルだった松本弘子のゲスト出演も注目。
画家マリー・ローランサンの愛人だったとも言われる作家のアンリ=ピエール・ロシェは、生前に自伝的小説二作を発表したが、そのどちらもトリュフォーによって映画化されている。それが『突然炎のごとく』と本作である。美しいイギリス人姉妹とフランス人青年による恋愛劇は血縁の絡む微妙な三角関係を構成し、愛の高揚感と挫折を見事に描写。初公開時にカットされ、トリュフォーの死の直前に完全版が完成した。
女性の脚線美をこよなく愛し脚が美しければ腰から上はどうでもよいという男を主人公にした、風変わりな女性探究物語。数多くの女性遍歴を綴った手記を出版するためにパリに出かけた主人公は、道行く女性たちの足に目を奪われて……。主演シャルル・デネルの軽妙な演技、街を闊歩する女たちの足を追いかけるキャメラ。女を愛する男たちの夢みる願望を鮮明に再現した作品。『禁じられた遊び』のB・フォセーも出演。
第一次世界大戦後、使者の追悼に己の人生を捧げる男。そのなかには若くして亡くなった妻もいる。彼の家には秘密の部屋があり、そこで死んだ妻を祭っているのだ。やがて彼はある女性と知り合うが……。『野性の少年』に続き主人公を自ら演じたトリュフォーは、自身の作品のなかで度々扱うロマン主義的な死への憧憬という主題を極限まで追求。『天国の日々』でアカデミー撮影賞を受賞したネストール・アルメンドロスによる夢幻の映像美は必見!
トリュフォーの処女長編作でゴダールの『勝手にしやがれ』と並ぶヌーヴェル・ヴァーグの金字塔。オーディションで100人近い候補者のなかから選ばれたJ=P・レオー扮する不良少年アントワーヌ・ドワネルの物語。学校をさぼって映画館や遊園地で遊び、盗みを働いては少年鑑別所送りに……。少年の瑞々しい表情やユニークなふるまいを巧みにすくいあげた名手アンリ・ドカの撮影は息をのむ素晴らしさ。ラストシーンの鮮烈なイメージは永遠に忘れがたい。
米のハードボイルド小説とフィルム・ノワールはヌーヴェル・ヴァーグの作家達にとって重要な発想源であるが、トリュフォーも長編2作目でデヴィッド・グーディスの暗黒小説を映画化している。かつて国際的なピアニストだった男は、あるスキャンダルが原因で今は場末のカフェのピアノ弾きに。やがて彼は店のウェイトレスと恋仲になるが……。ハイ・テンポな演出、洒落たユーモア、C・アズナヴールのシャンソンで再構成された異色のフィルム・ノワール。
アメリカの推理小説作家コーネル・ウールリッチ(別名ウィリアム・アイリッシュ)の同名小説を映画化したサスペンス・ミステリー。死んだ花婿の復讐のため、残された花嫁が銀行員、政治家ら5人の男を次々と冷酷に殺していく。失った男への愛を全うする手段として連続殺人に手を染めるヒロインは、極限の愛を描き続けるトリュフォーだからこそ表現できた特異な人物像。クールな表情で復讐を遂げていく主演J・モローの鬼気迫る名演が光る。
“アントワーヌ・ドワネル”もの第3章。兵役を終え社会復帰したアントワーヌ。ガールフレンドの父親に紹介されホテルのフロント係として働き始めるが、ある日浮気の調査にやってきた男に気に入られ探偵業に転職。潜入捜査で出会った美しい人妻にまたもやひと目ぼれ。極端な心理描写を排し、縦横無尽にレオーを追いかけるキャメラ、文学や音楽の引用、美しいパリの風景……。おもちゃ箱をひっくり返した様な青春のひとコマが楽しい一編。
女性犯罪心理の論文を書くため、若い社会学者が女子刑務所を訪ねる。彼はカミーユという美しい女と面会し、彼女を素材に調査を開始。父親に虐待された少女時代、男性遍歴、殺人について等今までの生い立ちを雄弁に語るカミーユ。何度か通ううちに、社会学者は彼女の魅力にひかれていく……。女の狡猾さと男の愚かさをコメディー仕立てで辛辣に描いた本作。『あこがれ』で清純なイメージをふりまいたB・ラフォンが悪女役を体当たりで熱演。
映画作りに関わる人々の心境を愛情込めて謳い上げアカデミー外国語映画賞を受賞したトリュフォーの傑作! 南仏のスタジオで、夫の父親と恋に落ちる若い人妻を主人公にしたメロドラマ『パメラを紹介します』が撮影されている。だが俳優やスタッフのチームワークが乱れ現場は大混乱に……。映画製作風景をまるごと映画にするという大胆な発想は映画を愛する監督ならでは。ヒロインを演じたJ・ビセットの美貌も必見。
“アントワーヌ・ドワネル”もの最終章。クリスチーヌと協議離婚したアントワーヌはレコード屋で働くサビーヌと恋仲に。ある日駅で初恋の人コレットに偶然出会い……。過去に作られた4本の名場面を巧みに挿入し、少年時代から中年にさしかかった現在までを自由に行き来する異色の構成が、トリュフォーの人生と俳優たちの人生を合わせ鏡のように照らしあわす。流れゆく月日に思いを馳せ、アラン・スーションの歌声で幕を閉じる見事な完結編。
ナチス占領下のパリを舞台に、演劇の灯を守る俳優たちの公私に渡る波乱万丈の日常を描いた物語。亡命中の夫がいる美貌の看板女優にC・ドヌーヴ、彼女に恋心を抱く新人俳優にG・ドパルデューというフランスを代表する2大スター共演で作られた本作は、巨匠の風格がただようトリュフォー晩年の傑作。監督が最も得意とする複雑な恋の三角関係を軸に、サスペンスに満ちた展開、ラストの衝撃等、娯楽映画の王道を行く楽しさ。セザール賞10部門受賞。
トリュフォーの長編3作目は映画史に残る究極のラヴストーリー。男2人と女1人の三角関係という古典的な設定の恋物語をヌーヴェル・ヴァーグの自由な映画作法で斬新に、かろやかに描ききったフランス映画屈指の傑作! 『クロワッサンで朝食を』『家族の灯り』など、今も現役で活躍中の大女優J・モローの自由奔放な演技がスクリーンに炸裂。死への憧憬を内に秘めながら、きまぐれで情熱的なヒロイン像は見事。
『大人は判ってくれない』で鮮烈なデビューを果たしたトリュフォーと主演のJ=P・レオーが再び組んで作った“アントワーヌ・ドワネル”もの第2章。少年鑑別所を出たドワネルはレコード会社に勤務。ある日音楽会でコレットと出会いひと目惚れ。何度アタックしてもつれなくされる彼は、彼女と仲良くなろうと一計を案じるが……。5人の監督によるオムニバスの一編として製作された本作は、初恋にときめく青年の一途な純情をユーモアたっぷりに描いた好編。
ノワール系作家ウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)の名作『暗闇へのワルツ』を基に作られたラヴロマンス・ミステリーの傑作。サスペンス映画の巨匠ヒッチコックに傾倒するトリュフォーが、華麗な映像美でみせる愛の逃避行。ゴダールの『勝手にしやがれ』で大スターとなったベルモンドとサン・ローランのゴージャスな衣装を身にまとうドヌーヴのふたりが、行き場のない恋にさまよう大人の男女を熱演。欧州縦断のロケもみものである。
フランス中部の森林地帯で獣と同じ生活をしてきた野性の少年が見つかる。人間世界に適応できない少年をみかねた博士は、彼を引き取りいちから教育し直そうとする。実話を基に、監督自らが主役の博士を演じた問題作。自身の不幸な少年時代の記憶から、動物と人の違いは教育にありと信じるトリュフォーの強い信念が作品全体に異様な緊張感を生みだした本作。少年役を演じたJ=P・カルゴルの圧倒的な存在感が光る。
フランスを代表する文豪ヴィクトル・ユゴーの次女アデルの物語。19世紀の中頃、初恋の男を愛し彼への熱い想いだけで生き抜いたヒロインの恋と冒険。初恋の相手ピンソンを追いかけて異境の地までやってきたアデル。何通も手紙を書き続け彼への気持ちを伝えるが、やがて彼女の精神が壊れ始め狂気の淵に……。 “恋”に取り憑かれ男を追い求めずにはいられないヒロインを、当時20歳のアジャーニが全身全霊で熱演。壮絶な美貌は愛の化身そのもの。
フランスの地方都市を舞台に小学校に通う子供たちの日常をリズミカルに点描した本作は、即興性を生かした演出で作られた30人の少年少女らによる映像のシンフォニーである。『あこがれ』『大人は判ってくれない』等、キャリア初期から魅力的な少年像を描いてきたトリュフォー。いたずらっ気、大人への反抗、異性へのときめき、秘めた恋といった子供たちのあらゆる感情を映画に持ち込み、誰もが知る子供時代の幸福感を再現した傑作。
『アデルの恋の物語』にみられる、死をも恐れぬ究極の愛を描くトリュフォーは、一方で『柔らかい肌』や本作のように平穏な日常生活にひそむ愛の罠を徹底したリアリズムで追及する監督でもある。かつて愛し合い別れた男女が偶然隣人同士に。互いに家庭をもつふたりの不倫の結果は……。成熟した大人が恋の炎に身を焦がすさまをF・アルダンとG・ドパルデューが繊細に演じ、見事な愛のドラマとなった傑作である。
南仏の小さな不動産屋で働く女秘書がある殺人事件に巻き込まれる。好奇心旺盛な彼女は探偵の真似事を始めるが……。ヌーヴェル・ヴァーグの源泉ともいえるフィルム・ノワールのタッチに回帰して作られた本作は、雨に濡れた歩道、謎のナイトクラブ、夜の街並み等、モノクロの美しい映像が魅力的。トリュフォー最後のパートナーとなったF・アルダンのエレガントな美しさに見惚れること間違いなし。遺作にも関わらず全篇にただよう瑞々しさは圧巻。

※フィルム上映の場合、作品により、映像・音声が必ずしも良好ではない場合がございます。予めご了承ください。
※16ミリの自主制作映画『ある訪問』(1954年、短編)は今回上映いたしません。