やさしい女 解説

一組の夫婦に起きた悲劇が、愛し合うことの難しさを問いかける

「彼女は16歳ぐらいに見えた」。質屋を営む中年男は妻との初めての出会いをそう回想する。安物のカメラやキリスト像を質に出す、若く美しいがひどく貧しい女と出会った男は、「あなたの望みは愛ではなく結婚だわ」と指摘する彼女を説き伏せ結婚する。質素ながらも順調そうに見えた結婚生活だったが、妻のまなざしの変化に気づいたとき、夫の胸に嫉妬と不安がよぎる……。衝撃的なオープニングから始まる本作は、一組の夫婦に起こる感情の変化と微妙なすれ違いを丹念に描き、夫婦とは、愛とは何かという根源的な問いを投げかける。

ベルトルッチの女神ドミニク・サンダ、17歳のデビュー作

「孤独な女を演じるのは、ベルナルド・ベルトルッチ監督『暗殺の森』『1900年』で知られるフランスの女優ドミニク・サンダ。ファッション雑誌VOGUEでモデルをしていたところをブレッソン監督に見出され、本作で映画デビュー。自らも15歳で年上の男と結婚するも数カ月で離婚という経歴を持つサンダは、映画初出演ながら、年上の夫を翻弄しながらも苦悩する女を見事に演じてみせた。また極端なまでに台詞を排した本作は、ふたりの男女の視線のドラマともいえ、サンダの視線の鋭さ、恐ろしさが彼女の心境の変化を物語る。17歳のドミニク・サンダの、輝くような美しさを堪能できる1本。

「白夜に先駆けてつくられた、ドストエフスキー傑作短篇の映画化。ブレッソンの初カラー作品がデジタル・リマスター版でよみがる。

原作は、ドストエフスキーの短篇のなかでも最高傑作と呼ばれる「やさしい女 幻想的な物語」。ブレッソンは原作のプロットを守りながらも、物語の舞台をロシアから現代(60年代後半)のパリへと移し、大胆な翻案を施した。また本作は、『スリ』『バルタザールどこへ行く』など、モノクロの厳格な画面作りを続けてきたブレッソンの初カラー作品。美しいカラー画面を手がけるのは、ジャック・ドゥミ『ロシュフォールの恋人たち』の撮影監督ギスラン・クロケ。1986年の日本公開以来ほとんど上映機会がなく、ソフト化もされていない貴重な映像が、このたびデジタル・リマスター版でよみがえる。

ドミニク・サンダ

1951年3月11日、フランスのパリに生まれる(1948年生まれという説もある)。本名ドミニク・ヴァレーニュ(Dominique Varaigne)。ブルジョアの家庭に育ち、15歳のときに学校を辞め結婚するがほどなく離婚。ファッション誌VOGUEなどでモデルとして活動していたところをロベール・ブレッソン監督に見出され、1969年『やさしい女』で映画デビューを果たす。その後もイタリア、フランス、アメリカ等で女優として活躍。なかでもベルナルド・ベルトルッチ監督の『暗殺の森』(1970)、『1900年』(1976年)への出演がよく知られている。1976年には、『沈黙の官能』(マウロ・ボロニーニ)での演技により、カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。日本では、1984年に写真集『ドミニク・サンダ写真集 女そして女優』(山田宏一編、話の特集)が出版されている。 その他の主な映画出演作に『初恋(ファースト・ラブ)』(マクシミリアン・シェル、70)、『悲しみの青春』(ヴィットリオ・デ・シーカ、70)、『マッキントッシュの男』(ジョン・ヒューストン、72)、『家族の肖像』(ルキノ・ヴィスコンティ、74)、『世界が燃えつきる日』(ジャック・スマイト、77)、『ルー・サロメ/善悪の彼岸』(リリアーナ・カヴァーニ、77)、『二人の女』(ミシェル・ドヴィル、79)、『都会のひと部屋』(ジャック・ドゥミ、82)、『肉体と財産』(ブノワ・ジャコ、86)、『ラテン・アメリカ/光と影の詩』(フェルナンド・E・ソラナス、92)、『クリムゾン・リバー』(マチュー・カソヴィッツ、00)等がある。また1990年以降は舞台にも積極的に出演し、コンスタントに仕事をつづけている。 私生活では1970年代にフランスの映画俳優兼監督クリスチャン・マルカンと同棲し、息子ヤン・マルカンをもうけた。1980年代には映画監督ブノワ・ジャコとも長らく恋愛関係にあったが、2000年にルーマニア人の哲学者兼大学教授と結婚。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスで暮らしているという。

原作小説

「やさしい女/白夜」
ドストエフスキー著
井桁貞義訳
講談社文芸文庫刊 定価:本体1200円(税別)