終戦を待たずして、人々が闘い、生きている現実を描き出そうという倫理的衝動に揺り動かされて生まれ、数々の名作を映画史に残してきたネオレアリズモ。その人間のあり方の本質を捉えた描写には激しく胸を打たれる。
無防備都市
Roma città aperta
監督:ロベルト・ロッセリーニ| 出演:アルド・ファブリツィ、アンナ・マニャーニ、マルチェッロ・パッリェーロ| 1945年|103分|モノクロ|デジタル・リマスター版
43年から44年にかけての冬に実際に起こった複数の出来事に想を得た、ネオレアリズモの傑作。独軍に占領されたローマで反ナチ闘争に従事するレジスタンスの闘士たち(共産主義者およびカトリックの聖職者、この双方と結束した民衆からなる)、彼らの互いに対する信頼と自己犠牲の精神を生々しくかつ感動的に描く。本作を観たイングリッド・バーグマンが、感激のあまりロッセリーニとの協働を熱望したのは有名な話。
3/16[木] 3/17[金] 3/20[月] 3/31[金] 4/6[木]
戦火のかなた
Paisà
監督:ロベルト・ロッセリーニ| 出演:カルメラ・サツィオ、ロバート・ヴァン・ルーン、マリア・ミキ| 1946年|126分|モノクロ|デジタル・リマスター版
シチリア、ナポリ、ローマ、フィレンツェ、アペンニーノ山脈、ポー河デルタ地帯―連合軍上陸以降、終戦へ向けて北上してゆく過程で浮かび上がる、アメリカ兵と土地の人々との宿命的な出会いと絆、そして悲劇。『無防備都市』で自由と解放に命を捧げた者たちを描き出したロッセリーニは、異なる風土や状況下で生まれる情景を、力強く、端的に、しかしやわらかに、本質を捉えた直観的な筆致で、時にシンボリックに映像化する。
3/16[木] 3/17[金] 3/20[月] 3/27[月] 3/31[金]
自転車泥棒
Ladri di biciclette
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ| 出演:ランベルト・マッジョラーニ、エンツォ・スタヨーラ| 1948年|89分|モノクロ|デジタル・リマスター版
仕事道具の自転車を盗まれて途方に暮れる、貧しい労働者とその幼い一人息子。彼らの姿を通じて、戦後イタリアにおける人々の生活の苛酷ぶりを活写したネオレアリズモの代表作。全編ロケーション撮影、出演者はみな素人。映画批評家アンドレ・バザンは本作を評して、俳優やセットや物語に頼ることを拒絶し、まるで現実そのものを目にしているかに錯覚させる「純粋映画の最初の例」だと絶賛した。
3/11[土] 3/15[水] 3/17[金] 3/19[日] 3/20[月] 3/23[木] 3/28[火] 4/3[月]
ウンベルトD
Umberto D.
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ| 出演:カルロ・バッティスティ、マリア・ピア・カジリオ、リナ・ジェンナーリ| 1952年|89分|モノクロ|デジタル・リマスター版
観客の涙腺を弛める術で右に出る者なき名匠、デ・シーカが父親、ウンベルト・デ・シーカに捧げた珠玉作。生活に窮し、犬を連れてさまよいゆく哀れなおじいさんの姿を端正に、切々と描ききる。大戦終盤から直後の庶民の生きる姿と魂のありようを映し出したネオレアリズモ作品の中でも、デ・シーカはエモーショナルなインパクトをつきつめ、パトスをぐいぐい揺さぶる。痛切極まりなく、溢れる涙が止まらない。
3/12[日] 3/18[土] 3/21[火] 3/23[木] 3/30[木] 4/7[金]
青春群像
I vitelloni
監督:フェデリコ・フェリーニ| 出演:フランコ・ファブリツィ、アルベルト・ソルディ、エレオノーラ・ルッフォ| 1953年|110分|モノクロ|デジタル・リマスター版
フェリーニの生まれ故郷、イタリア北西部の海辺の町リミニ。夏はアドリア海沿岸有数のリゾートとして賑わう町に霧が漂い、人恋しくなる冬を舞台に、“青春”でくく るにはトウが立った、大人になれない若者たちがあてどなく過ごす、どことなく白昼夢にも似た日々。彼ら“大きな子牛”たちは作家のめくるめく追想の―この後、数々の名作の中でくり返し描かれてゆく、甘いメランコリーに包まれた季節の、最初の住人たちだ。
3/13[月] 3/14[火] 3/23[木] 3/24[金] 3/27[月] 4/4[火]



クラウディア・カルディナーレ、エルサ・マルティネッリ、オッタヴィア・ピッコロ……。1950年代末から60年代にかけて活躍した監督 たちが描き出した、美しきイタリア女優たち。
狂った夜
La notte brava
監督:マウロ・ボロニーニ|出演:ジャン=クロード・ブリアリ、エルサ・マルティネッリ、アントネッラ・ルアルディ| 1959年|93分|モノクロ|デジタル・リマスター版
ローマ郊外の貧しく、明日なき若者たちの破天荒な生を愛したパゾリーニの短編をベースに作家自身が脚本を書き、ボロニーニが映画化した第1作。不敵な台詞を吐き散らすケチな泥棒たちの刹那的な一日の物語を、ピッチョーニのお洒落なラウンジ・ミュージックに乗せ、スキャッフィーノ、ルアルディ、マルティネッリ、ドモンジョら、役柄の娼婦やメイドにはおよそ似つかわしくない美の競演で魅せる、夢のようにはかない作品。
3/13[月] 3/16[木] 3/20[月] 3/23[木] 3/29[水]
汚れなき抱擁
Il bell'Antonio
監督:マウロ・ボロニーニ| 出演:マルチェッロ・マストロヤンニ、クラウディア・カルディナーレ| 1960年|108分|モノクロ|デジタル・リマスター版
ヴィタリアーノ・ブランカーティの小説に基づき、原作の時代背景(ファシズム期にあたる1930年)を戦後に移し替えて翻案した作品。脚本執筆にはパゾリーニが参加している。ローマで学生生活を送ったアントニオ(マストロヤンニ)が、シチリアのカターニャにある実家に帰省する。“男らしい”富裕な家系の生まれの美青年で、女たちの憧れの的でもある彼は、バルバラという娘に一目ぼれし結婚するが……。ロカルノ国際映画祭グランプリ受賞。
3/12[日] 3/15[水] 3/18[土] 3/21[火] 3/24[金] 3/29[水] 4/5[水]
激しい季節
Estate violenta
監督:ヴァレリオ・ズルリーニ 出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エレオノーラ・ロッシ・ドラーゴ、ジャクリーヌ・ササール| 1959年|102分|モノクロ|デジタル・リマスター版
ズルリーニが監督としての名声を確立した長編第2作。本作の時代背景は、連合軍がシチリアに上陸し、ムッソリーニが失脚した43年7月。このイタリアにとっての激動期に、アドリア海に面した美しい避暑地リッチョーネで、ファシスト党指導者の息子カルロと海軍将校の未亡人ロベルタが織りなす激しくも悲劇的なロマンス。カルロ役を演じたトランティニャンにとっては、このイタリア映画が初の主演作となった。(※国際版での上映です)
3/11[土] 3/14[火] 3/17[金] 3/18[土] 3/22[水] 3/25[土]
鞄を持った女
La ragazza con la valigia
監督:ヴァレリオ・ズルリーニ 出演:クラウディア・カルディナーレ、ルチャーナ・アンジェリッロ、ジャック・ペラン| 1961年|126分|モノクロ|デジタル・リマスター版
イタリア映画の黄金期に“世界一の美貌”と謳われ、巨匠たちが次々と映像のポートレートを捧げたミューズ、カルディナーレ。そのしなやかで妖しげなネコ科の魅力を、振る舞いは自由だが心はまだ優しい60年代的女性像に託し、若き日のジャック・ペランの硬質で初々しい輝きと対比させつつ引き出したズルリーニの技が冴える名品。懐かしの名曲がちりばめられた、ひと夏のパルマとリミニのロケーションも魅惑だ。
3/11[土] 3/15[水] 3/22[水] 3/25[土] 3/30[木]
わが青春のフロレンス
Metello
監督:マウロ・ボロニーニ| 出演:マッシモ・ラニエリ、オッタヴィア・ピッコロ、ティナ・オーモン| 1970年|107分|カラー|デジタル・リマスター版
19世紀末のこよなく美しいフィレンツェを舞台に、時にフェルメールを思わす精緻な絵画的様式美と、郷愁に溢れ、豊潤なロマンティシズムを湛える世界の中でモリコーネの流麗な旋律に導かれるように物語がよどみなく展開し、役者がそれぞれしなやかな演技を見せて、映画の醍醐味を存分に味わわせてくれる銘品。階級闘争に揺れる動乱の時代をひたむきに生きてゆく若い夫婦の姿が愛おしい、名匠ボロニーニの最高傑作。
3/19[日] 3/21[火] 3/25[土]



戦後が終わり、経済成長が進んでフィルムが白黒からカラーになるにつれ、巨匠たちの作品と並んで大いに銀幕を賑わせたイタリア式喜劇。世相も自己も一緒くたにおおらかに、ぴりりと笑い飛ばす風刺劇の痛快な愉しみ。
三月生れ
Nata di marzo
監督:アントニオ・ピエトランジェリ|出演:ジャクリーヌ・ササール、ガブリエーレ・フェルゼッティ|1958年|111分|モノクロ|デジタル・リマスター版
50~60年代にかけて秀作を連打した才人ピエトランジェリの長編第4作。気まぐれでわがままな17歳の娘フランチェスカは、街なかで知り合った20歳年長の建築士サンドロと衝動的に結婚してしまう。奔放な性格で夫を翻弄するフランチェスカだが、やがて結婚生活の難しさを認識し始め……喜劇のオブラートに包まれた苦いドラマ。題名は、気候不順を表現する諺「三月はいかれている」から採られている。
3/12[日] 3/16[木] 3/21[火] 3/24[金] 3/28[火] 4/2[日]
気ままな情事
Il magnifico cornuto
監督:アントニオ・ピエトランジェリ| 出演:ウーゴ・トニャッツィ、クラウディア・カルディナーレ| 1965年|123分|モノクロ|デジタル・リマスター版
“浮気”をテーマにくりひろげられる、ある夫婦の艶喜劇。舞台は、イタリア北部のブレーシャ。帽子工場の社長アンドレアは、ふとしたきっかけから美しい妻マリア・グラツィアの浮気を疑い始める。妻の浮気現場を妄想するあまり、やがて夫はノイローゼ気味になっていき…。美しいドレスに身を包んだ、色気たっぷりのカルディナーレがたまらない。音楽は、イタリア式喜劇を数多く手掛けたアルマンド・トロヴァヨーリ。
3/15[水] 3/18[土] 3/24[金] 3/26[日] 3/29[水]



『グレート・ビューティー/追憶のローマ』『グランドフィナーレ』など、数々の話題作を発表し、いまもっとも注目されるイタリアの映画監督ソレンティーノの、日本未公開作品を含めた貴重な初期作品。
愛の果てへの旅
Le conseguenze dell’amore
監督:パオロ・ソレンティーノ| 出演:トニ・セルヴィッロ、オリヴィア・マニャーニ、アドリアーノ・ジャンニーニ| 2004年|104分|カラー|デジタル
ガッローネと並んで現イタリア映画界が誇る鬼才ソレンティーノが撮影にルカ・ビガッツィを迎え、その名を一躍世界に知らしめた名品。この一作で観る者を煙に巻き、心を捉えて、今やひく手あまたの名優、トニ・セルヴィッロがだんまりを決める怪演と、スタイリッシュな映像美、秀逸な音楽センスで、謎めいた男の果てなき孤独と奇妙な愛の軌跡が描かれる。サスペンスの根底に秘められたロマンティシズムが哀しい。
3/11[土] 3/19[日] 3/22[水] 3/26[日] 4/1[土]
日本初上映
もうひとりの男
L’ uomo in più
監督:パオロ・ソレンティーノ| 出演:トニ・セルヴィッロ、アンドレア・レンツィ、アントニーノ・ブルスケッタ| 2001年|101分|カラー|デジタル
ここではしごく饒舌なセルヴィッロ演じるシニカルで野放図な歌手と、アンドレア・レンツィ演じる真面目で内向的でナイーヴすぎるサッカー選手という、特異で対照的な2人のアントニオ(トニ)・ピザピアが、それぞれキャリアの頂点に達した時点を皮切りに、襲いかかる運命に弄ばれながら抗い、生きる道を探ってゆく姿が並行して語られる。いずれも奇抜なソレンティーノ作品中もっとも劇的で刺激的な長編デビュー作。
3/12[日] 3/19[日] 3/22[水] 3/26[日]



ヨーロッパを中心とした選りすぐりの映画作品を配給するマーメイドフィルム。2008年から配給してきた映画の中より、珠玉のイタリア映画4本をアンコール上映。
ロベレ将軍
Il generale Della Rovere
監督:ロベルト・ロッセリーニ| 出演:ヴィットリオ・デ・シーカ、ハンネス・メッセマー、サンドラ・ミロ| 1959年|140分|モノクロ|デジタル・リマスター版
第二次大戦末期のレジスタンスの英雄、デッラ・ロベレ将軍にまつわるきわめて奇異でイタリア的な実話をネオレアリズモの旗手、ロッセリーニが軽妙に、劇的に描く、『無防備都市』をひっくり返したような異色のヒューマンドラマ。その弛まざる演出に応えた役者、デ・シーカが渾身のアンチヒーローを体現し、最低の詐欺師の中にも奇跡的に芽生える正義感(ないし人間的使命感)を表して尋常ならざる感動を呼ぶ。
3/14[火] 3/27[月]
暗殺の森
Il conformista
監督:ベルナルド・ベルトルッチ|出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ| 1970年|113分|カラー|デジタル・リマスター版
ベルトルッチの研ぎ澄まされた知性(洞察力)と美意識(感性)と優美な官能性が、光の錬金術師、ヴィットリオ・ストラーロの才気に火を点け、華麗で独創的な映像表現を完全に開花させた恐るべき一作。ローマとパリを舞台に、歪んだ強靭なエゴを抱く男の記憶を巧みなフラッシュバックで綴り、ファシズムの暗黒の世界、父性や権威の抑圧と自由や精神の解放のヴィジョンが美しい悪夢のように展開されてゆく様は鮮烈で圧巻だ。
3/13[月] 3/30[木]
フェリーニの道化師
I clowns
監督:フェデリコ・フェリーニ| 出演:フェデリコ・フェリーニ、アニタ・エクバーグ、ピエール・エテックス| 1970分|92分|カラー|デジタル
失われつつある道化師とサーカスの伝統に敬意を払った、哀しくも温もりに満ちた虚実混淆のフェリーニ流映像詩。フランスの俳優兼映画監督ピエール・エテックス、喜劇王チャップリンの娘ヴィクトリアらサーカスの世界と深いつながりを持つ人々の他、『甘い生活』(60)でヒロインを演じたアニタ・エクバーグもゲスト出演。ニーノ・ロータ作曲による哀感溢れるトランペットの音色も忘れがたい。
3/13[月] 3/28[火]
ゴモラ
Gomorra
監督:マッテオ・ガッローネ|出演:トニ・セルヴィッロ、ジャンフェリー、チェ・インパラート、マリア・ナツィオナーレ| 2008年|137分|カラー|デジタル
ナポリ・マフィア、カモッラの実態を、著者が命を狙われるほど生々しく暴いたベストセラー・ノンフィクションをベースに、ガッローネの嗅覚と眼が、悪の病に冒された土地とそこに生きる人々の生態を描き出す。地元の素人劇団員や刑務所内劇団員に加えて本物の犯罪者をキャスティングし、息づかいや汗、舞いあがる土埃の匂いすらしそうな現実を、時に彼らと同じ目線で、時に叙事詩的パースペクティヴの中で捉えた究極の人間劇。
3/14[火] 3/31[金]
今回上映される18作品のうち“クラッシコ”にあたる旧作12本は、すべてルーチェ・チネチッタが総力を挙げて手がけたデジタル・リマスター版にて上映いたします。この版での上映は、日本では初のお披露目となります。かつてスクリーンで出会った名作たちとの再会、そして新たな出会いを存分にお楽しみください。