ベルタのモチーフ
Los motivos de Berta
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:ヘラルド・ゴルメサノ│1983年│スペイン│120分│モノクロ│ヴィスタ│デジタル│言語:スペイン語
◉ ゲリンが若干23歳で製作した長編第一作。
1984年に公開されたものの、その後、2012年「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」でニュープリントが焼かれるまで、長い間上映の機会に恵まれなかった幻の処女作。
セゴビアの辺鄙な農村地方を舞台に、孤独な少女ベルタと空想上の妻を愛する精神を病んだ男デメトリアの奇妙な交流を描く。幻想の中に生きる男との出会いは、
思春期の少女にとってあたかも通過儀礼のように消化されていく。どこかビクトル・エリセの映画を想起させる幻想的な少女映画。外国人の映画女優役で、
エリック・ロメール映画の常連女優アリエル・ドンバールが出演している。
イニスフリー
Innisfree
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:ヘラルド・ゴルメサノ│1990年│スペイン・フランス・アイルランド│108分│カラー│スタンダード│デジタル│言語:英語・ゲール語
◉ ジョン・フォード監督『静かなる男』(1952)のロケ地となったアイルランドのコング村で撮られたドキュメンタリー映画。
フォードの映画では架空の村「イニスフリー」として登場した村に約1か月間滞在したゲリンは、映画に映された風景の現在の様子や、地元の人々の生活、
村の地理や歴史を映しとり、『静かなる男』へのオマージュとして新たな物語をつくりだす。劇中では、映画に出演した村人たちの製作裏話も披露され、
フォードやジョン・ウェインのファンを喜ばせてくれる。また『静かなる男』の映像や、W・B・イエイツの詩「イニスフリーの湖島」の朗読も引用される。
影の列車
Tren de sombras
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:トマス・プラデヴァル│1997年│スペイン│82分│モノクロ&カラー│スタンダード│デジタル│言語:スペイン語
◉ 1930年のある朝、フランス北西部のル・テュイ湖でひとりのアマチュア映画作家が謎の失踪を遂げる。それから30年以上経ち、
彼が遺した家族映画のフィルムの断片が発見される。作家はどこへ消え、フィルムには何が映っていたのか? 過去のモノクロ映像と現在のカラー映像を交互に並べていくことで、
湖周辺に漂う映画作家とその家族の亡霊たちの姿が浮かび上がる。まるでミステリーのような物語を持つ怪奇幻想映画だが、実はその物語設定も、
発見されたという古いフィルムもすべてゲリンによる創作である。主に写真とフィルム映像とで構成されたロマン主義溢れる実験的作品。
工事中
En construcción
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:アレックス・ゴルティエ│2001年│スペイン│133分│カラー│スタンダード│デジタル│言語:スペイン語
◉ 1998年7月から12月までに行われた、バルセロナのスラム街(ラバル地区)にある集合住宅の解体作業と高級住宅建設の過程を映したドキュメンタリー映画。
スペイン版『ヴァンダの部屋』(ペドロ・コスタ)とも言える題材だが、随所にゲリンらしいユーモアとロマンチシズムが溢れ、ときに笑いや不思議な高揚感をもたらす。
若い街娼とその恋人、元水夫で廃品回収業の老人、モロッコ出身のレンガ積み職人。カメラは、個性豊かなスラム街の住民たちの生活に寄り添い、都市郊外の変貌をリアルにとらえる。
スペインでは14万5千人を動員し、ドキュメンタリー映画として異例の大ヒットを記録した。
シルビアのいる街で
Dans la ville de Sylvia
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:ナターシャ・ブレエ│2007年│スペイン・フランス│85分│カラー│ヴィスタ│デジタル│言語:フランス語
◉ 6年前に出会った女性シルビアを追い求めて、フランス国境の街ストラスブールへやってきた画家志望の青年。
カフェで街行く女性たちの姿をスケッチする青年は、シルビアに似た女性を見かけあわててその後を追う。美しい街並のなかで、
かつて愛した女性の面影を追う男と様々な女性たちの姿。ベネチア国際映画祭ほか多くの映画祭で上映され、
映像作家ゲリンの名前を一躍有名にした代表作であり最高のミューズ映画。前作『シルビアのいる街の写真』のアイディアを発展させた本作には、
ダンテの恋愛詩『新生』へのオマージュも込められている。至福の音響世界と光溢れる画面とが見る者を魅了する。
シルビアのいる街の写真
Unas fotos en la ciudad de Sylvia
監督・脚本・撮影:ホセ・ルイス・ゲリン│2007年│スペイン│67分│モノクロ│スタンダード│デジタル│言語:スペイン語・英語・フランス語(字幕のみ)
◉ たった一度だけすれ違った、見知らぬ女性の幻影に囚われる男たち。それは、ダンテにとってのベアトリーチェ、ペトラルカにとってのラウラと同じく、
ひとりの女性への絶対的な妄執の物語だ。『シルビアのいる街で』より前に用意された本作は、ゲリンが私的な記録として撮りためた写真素材を使ってつくられた無声映画。
ストラスブール、フィレンツェ、アヴニョンへの旅の記録とともに、静止写真と言葉による空想的物語が語られていく。
そこでは、詩人ゲーテが恋したストラスブールの女性、ゲリンの友人で映画批評家のミゲル・マリアスがマドリードで出会った女性についての物語も語られる。
ゲスト
Guest
監督・脚本・撮影:ホセ・ルイス・ゲリン│2010年│スペイン│133分│モノクロ│ヴィスタ│デジタル│言語:スペイン語・英語・中国語・フランス語・イタリア語・アラビア語
◉ 2007年9月から2008年9月まで、『シルビアのいる街で』で参加したベネチア国際映画祭を皮切りに、
世界各国の映画祭や上映会を訪問する映画作家ゲリンの1年間にわたる旅日記映画。
題名は、映画祭関係者に配布される通行証の英語表記に由来する。一時滞在者としてイタリア、フランス、コロンビア、チリ、キューバ、
中国など様々な国を訪れた作家は、市井の人々の活気あふれる姿を小型カメラで記録する。街中のデモで声をあげる市民や世界の終末を説く伝道師、
人生を語る街角の詩人など、多種多様な人々が登場。映像は日付順に並ぶが、実際には編集によって創作的に時系列が入れ変えられている。
アナへの2通の手紙
Dos cartas a Ana
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン│撮影:アルバロ・フェルナンデス・プイグ│2010年│スペイン│28分│モノクロ│ヴィスタ│デジタル│言語:スペイン語(ほぼ字幕のみ)│©José Luis Guerin
◉ セゴビアのエステバン・ビセンテ現代美術館で発表されたインスタレーション『コリントスの女』に含まれる映像をまとめた短編作品。
展示では、映画の1秒間が24コマ数であることに合わせ、10秒から3分程度の長さで24のパートに分割して映写された。大プリニウスの『博物誌』をもとに、
西欧絵画における「絵画の起源」を考察した、映画と絵画をめぐる実験的な映像作品。※『サン゠ルイ大聖堂の奴隷船サフィール号』と併映
サン゠ルイ大聖堂の奴隷船サフィール号
Le Saphir de Saint-Louis
監督・脚本・撮影:ホセ・ルイス・ゲリン│2015年│フランス・スペイン│35分│カラー│スタンダード│デジタル│言語:フランス語│©Perspective Films
◉ フランス西部の港町で毎年開催されているラ・ロシェル映画祭の依頼により製作された、
同地のサン゠ルイ大聖堂をめぐるドキュメンタリー作品。ゲリンは、大聖堂のチャペルにある1枚の奉納画に注目。
1741年に起こった奴隷船「サフィール号」の悲劇に隠された歴史物語をひもといていく。広島国際映画祭2016で上映後、
今回が初公開となる。※『アナへの2通の手紙』と併映
ある朝の思い出
Recuerdos de una mañana
監督・脚本・撮影:ホセ・ルイス・ゲリン│2011年│スペイン・韓国│45分│カラー│ヴィスタ│デジタル│言語:スペイン語│©Jeonju International Film Festival
◉ 韓国のチョンジュ(全州)国際映画祭からの依頼で製作された「チョンジュ・デジタル・プロジェクト」(「デジタル3人3色」)の1作品。
2008年1月21日,バルセロナの集合住宅の4階に住むひとりの中年男が投身自殺をする。ゲリンは、近隣の人々への取材を通して、男の生前の様子と、
自殺当日の状況をカメラに映し出す。証言によって描かれる、ひとりの死者の記憶と人生。 ※『思い出』と併映
思い出
Souvenir
監督:ホセ・ルイス・ゲリン│1985年│スペイン│5分│モノクロ│スタンダード│デジタル│言語:スペイン語(字幕と音楽のみ)│©José Luis Guerin
◉ ゲリンが初期に撮影した、創作日記風の短編映画。フランソワーズ・アルディの『男の子と女の子』が流れるなか、
海辺でたわむれるゲリンと、『ベルタのモチーフ』でベルタ役を演じたシルビア・グラシアが映されている。※『ある朝の思い出』と併映