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 ここ数年、ポーランド出身の映画人が世界を席巻しています。イエジー・スコリモフスキ『エッセンシャル・キリング』、ロマン・ポランスキー『毛皮のヴィーナス』、アンジェイ・ワイダ『ワレサ 連帯の男』といったベテラン作家の健在ぶりから、アカデミー賞ノミネートを果たしたパヴェウ・パヴリコフスキ『イーダ』やマチェイ・ピェブシツァ『幸せのありか』など若手の台頭にいたるまで、その活躍ぶりが世界各国で注目されています。そんな黄金時代の到来を予感させるポーランド映画シーンからまた新たな才能が登場しました。本作『イマジン』で、視覚障害者のための診療所に勤める教師と美しい教え子の淡い恋愛劇を、研ぎすまされた音響設計と自然光を駆使した魅惑の映像美で奏でたアンジェイ・ヤキモフスキです。

 1963 年生まれのアンジェイ・ヤキモフスキは、ワルシャワ大学で哲学を学んだのち映画演出の道に進み、長編デビュー作『目を細めて』(03、未)でポーランド映画賞の最優秀賞を4 部門で獲得、続く『トリック』(07、未)でヴェネチア国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した新進気鋭の作家です。

 盲目の恋人たちを演じる主演のふたりは、日本ではほぼ無名ながら欧米では確固たる評価を得ている演技派俳優たちです。エヴァ役のアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア系のドイツ人女優。『コッポラの胡蝶の夢』(07)や『ラッシュ/プライドと友情』(13)で注目を集め、以後数々の作品に出演。4 カ国語を流暢に話す才女で2012 年フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受勲しています。
 一方アウトロー的な風貌でクールな教師イアンを演じたエドワード・ホッグはイギリスの王立演劇学校を卒業し、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで活躍した実力派。映画出演作のほとんどが日本未公開ですが、イケメン英国俳優の系譜に並びそうなセクシーさが魅力で、いま要注目の俳優です。

 映画全篇にわたるポルトガルロケ、ポーランド人ではないプロの俳優と実際に視覚に障害のあるアマチュアの子どもたちとの共演、ほぼ英語による台詞など、異色の設定による本作はポーランド・ニューウェイヴの代表作と言っても過言ではありません。目の見えない男女による恋というロマンティックな物語、パフォーミング・アートを思わせるユニークな授業風景、路面電車が行き交う古都リスボンのクラシックな佇まいが詩的美しさにあふれた映像でスクリーンに展開し、ポーランド映画祭2014 で観客の圧倒的支持を受けた『イマジン』。映画の本質とも言える“音と映像” のもつ意味性をラブストーリーとして見事に昇華させた傑作です。